高尾山への誘い
 自然研究路7コースの散策

長岡 弘
  2区隊
  職種: 普通科


 これまで、「高尾山」という名前は聞いたことがある程度のことで、登ったことはありませんでした。
昨年(平成29年)12月6日に初登山。7コースの自然研究路があることを知り、全コースを把握したいとの思いが募り、9回登りました。9回目は今年の1月26日、関東平野に降雪のあった4日後のことです。

 当初は、体力の現況確認が主な動機でしたが、登るたびに興味が増してきました。薬王院、沢沿い、尾根道、南北斜面等の通過といったバラエティに富んだコース、眺めの良さなどの魅力のほか、自然保護と利用者を考えてのコースの維持・管理など、いろいろな素晴らしさを知り、登山回数を重ねました。
7つのコースは次のとおりです。
  山麓から山頂に至るコース:1号路、6号路、稲荷山コース
  中腹から山頂に至るコース:3号路、4号路
  周回コース:2号路、5号路

     

 各コースには、高尾ビジターセンターによる解説板がところどころに設置されており、高尾山で見られる動・植物等について学べるようになっています。

〇1号路(表参道コース) 3.8q、1時間40分(各ガイドブックの平均的所要時間、以下同じ。)
 このコースは、山頂へ向かうメインルートであり、さらに、中腹に鎮座する高尾山薬王院への表参道にもなっています。ケーブルカーやリフトを利用すると霞台まで一気に上がれますが、ここでは山麓から登っていくルートを紹介します。
 ケーブルカー「清滝駅」前広場の右側から参道(1号路)に入ります。入口左には「高尾山薬王院」の石柱、右は「薬王院別院不動院」です(写真左)。文化10年(1813)の古地図(「武蔵名勝図会」草稿 高尾山の絵)(写真右)と対比させると、A鳥居(「一の鳥居」と呼ばれていた。)が撤去されている以外は、@不動院、B清滝(石柱の左後方で流れ落ちています)は、昔のままであることが分かります。

  

 1号路は、一部の区間を除いては舗装され、車(一般車を除く)も通行できます。当初は沢沿いを進むので、巨木は苔をまとっています。また、薬王院の山門である四天王門の前までは「都道189号線高尾山線」であり、それを証明するかのように入口付近から200mほどは、都電を廃止して出た花崗岩が敷石になっています(写真左)。敷石から先の坂道は、しばらくはなだらかですが、次第に急坂となり、リフト「山上駅」が左下に見える辺りまで続きます。

 コースからは外れることになりますが、「金比羅台」には展望台があり、八王子市街が目前に、その向こうには東京スカイツリーも見えます(写真右)

 展望台から100mほど先で1号路に合流します。合流点直ぐの右脇には、多くのガイドブックによれば「万惣大師」の名が記されていますが、その説明はありません。事典等で調べても、高尾ビジターセンターなどの案内所で尋ねても「分かりません」でした。薬王院の護摩受付所勤務の僧侶に確認したところ、「いろいろな経緯があるようですが、万惣大師という僧がいたわけではありません。そこの石仏のご本尊は何れも薬師如来様です」とのことでした。現場には2体の石仏(薬師如来)と数多くの木苗奉納の石柱(奉納者は神田市場「万惣」)が建てられています。奉納者名から「万惣大師」についての推測ができそうです。

  

 「山上駅」の上辺りからは比較的平坦な道を進み、やがて「蛸杉(たこ杉)」(写真左)が現れます。高さ37m、樹齢約450年の大杉で、根の部分が蛸の足や口に似ていることからの命名です。やがて薬王院の総門たる「浄心門(じょうしんもん)」(写真右)に着きます。門の左後方に建っているのは「神変堂(しんぺんどう)」です。

  

 朱色の灯篭が並ぶ参道を進むと、間もなく道は二股となり、左は108の階段になっている「男坂」、右は緩やかな坂の「女坂」です(写真左)。いずれを通ってもその先の「権現茶屋」で合流します。これらの道を挟んだ台上には仏舎利塔が建っています。
これを過ぎると、樹齢500年を超える杉の巨木が見事な並木をつくり(注連縄のあるのが「天狗の腰掛け杉」)、右側には杉苗奉納板がズラリと並んでいます(写真右)。これらを眺めながら進めば、薬王院山門・四天王門に着きます。蛇足ながら、29年の杉苗奉納のベスト3は、30万本が京王電鉄と高尾登山鉄道、10万本が北島三郎(ほか数名)です。

  

 境内の様子は、次回に予定している「薬王院めぐり」で細部を紹介させてもらうこととし、ここではコースの概要を記します。
「もみじや」前の「四天王門」をくぐり、「護摩受付所」を抜け(写真左)、急な階段を上がり「大本堂」前へ出ます。その左手の階段を登り「鳥居」をくぐると「飯縄権現堂」(いづなごんげんどう)です。その右奥に進み、「高尾山頂方面」の案内板がある階段を上がると「奥之院不動堂」と「富士浅間社」が現れます。その右横を通り、薬王院の境内を抜けます(写真右)

  

 境内を抜け、木道、続いて山道を進むと、高尾山頂直下にある2階建ての立派なトイレ(以下、「山頂下トイレ」)が現れます。そこからは100mほどで山頂到着です。
山頂には、「高尾山頂599.15m」の道標、三角点、高尾ビジターセンター、4軒の茶屋などがあり、かなり広々としています(写真左)。1月26日は残雪があり、凍結していました(写真右)

  

 山頂には、「十三州大見晴台」、「大見晴台園地」の展望台がありますが、ここでは大見晴園地からの展望写真を紹介します(富士山と江の島、30年1月15日撮影)。さらには、南アルプスの山々も眺めることが出来ます。

  


〇6号路(琵琶滝コース) 3.3q、1時間40分
 このコースの大部分は、高尾山と稲荷山の尾根に挟まれた沢沿いのコースであり、「とび石」を通過するまで沢音を聞くなど、清涼感を味わいながら歩くことが出来ます。

 入口は、ケーブルカー清滝駅から500mほど先にあります。清滝駅舎左側の車道を進むと間もなく、右前方に石仏群が現れます(写真左)。その先、妙音橋の手前で舗装道と分かれて左に進むと入口となり、標識「自然研究路6号路」の右脇から山道に入っていきます。
最初は高い杉木立の中、登山道らしい雰囲気を味わいながら「前ノ沢」沿い進みます。やがて、沢を挟んだ対岸に「岩屋大師」が見えます(写真右)。「風雨にさらされて弱っている母子を救うため、弘法大師が合掌すると岩が崩れて洞窟ができた」という伝説が残る場所で、2つの洞窟には左に弘法大師、右に地蔵尊が祀られています。

  

 さらに進むと道は二股になり、寄り道になりますが右へ行くと、直ぐのところに「琵琶滝不動堂」、その左後方には、このコース名ともなっている「琵琶滝」(高さ約3.5m)が流れ落ちています(写真左)
Uターンして本来のコースに戻り、引き続き沢沿いを進みます。シダが生い茂り、巨木に苔がまとっている姿が多く見られます(写真右)

  

 その後、大山橋などの小さな橋をいくつか越えると、稲荷山コースとの分岐に出ます。6号路は直進しますが、ここから100mほどは様相が変わり、沢登りルートとなり、前ノ沢の源頭を目指して「とび石」伝いに登っていきます。澄み切った流れや沢音が気持ちよく感じられますが、とび石は滑りやすくてヒヤッとすることもあり、要注意です(写真左)
沢から分かれ、やや急な斜面、続いて長い階段を登るとベンチが置かれている広場に出ます。ここは6号路の終点で、3号路と5号路のとの合流点です(写真右)。5号路を右に進み、200mほど先の山頂下トイレ前で1号路に合流し、それを左に進むと山頂です。

  


〇稲荷山コース  3.1q、1時間40分
 このコースは、他のコースとは違って終始尾根道を登ります。このため舗装道はなく、ひたすら山道を歩くので、ちょっとした登山気分を味わうことが出来ます。また、距離標識が200m(一部は300m)ごとに設置されています。

 入口は、ケーブルカー清滝駅舎左の、小さな沢に架かる石橋を渡ったところにあり、スタート初っ端から急な階段登りになります。やがて、コース名の由来にもなっている旭稲荷(写真左)に着きます。
ここを発つと直ぐに0.2qの距離標識に出会いますが、「エッ、まだ200m?」との思いがよぎります。登りはゆるやかになりますが、今度は木の根が網の目のように這った道に出会います(写真右)

  

 山道の両側は高い樹木に覆われていますが、天気がよければ木漏れ日が差して気持ちよく歩けます(写真左)。やがて木の階段になり、巻き道に出会いますが、直進すれば稲荷山(396m)の展望台に着きます。空気が澄んでいれば都心から筑波山が見えます(写真右)

  

 展望台から少し下ると先ほどの巻き道に合流し、緩やかな登りになり、平らな道と木の階段(写真左)を繰り返しながら進みます。この間、木の根が露出したところや板で敷かれた道(写真右)を通り、やがて案内板とベンチが置かれている明るい広場に出ます。正面には5号路が横切っていますが、これを直進して真っ直ぐ伸びる230段ほどの階段を登り切れば、高尾山頂広場の南西側にある大見晴園地の横に出ます。右50mほど先には「高尾山頂」の道標が見えます。

  

 「階段が多いのは、植物の減少を防ぐためです。対策として、@階段設置、Aアスファルト舗装、B木道設置などの方法があります。登山初心者でも歩きやすく、土を感じられる整備として、@の方法が一番多く取り入れられています。」(高尾ビジターセンター職員談)


〇3号路(カツラ林コース)  2.4q、1時間
 このコースは、南斜面の山道を、ほぼ等高線に沿って緩やかに登って山頂直下に至ります。
入口は、浄心門をくぐって直ぐ左脇(「3号路を経て高尾山頂」の標識があります)にあり、木の階段を下るところから始まります。
途中、小さな橋をいくつか渡り、ときに左側が開けてV字谷の向こうに八王子市街が見える特別なアングルもあります(写真左)。  
また、山頂まであと600mほどの地点には、木立に囲まれた「かしき谷園地」があり、休憩場所として多くの登山者が利用しています(写真右)。「かしき谷」は「炊き谷」と書きます。昔、ここで仙人が住んでいたという伝説によるものです。
かしき谷園地の先で薬王院から続く林道に出ます。これを左に進み、緩やかに登っていくと5号路と6号路の合流点になります。コースとしての3号路はここで終わり、山頂へは5号路を右に進み、1号路との合流後は左に進みます。

  


〇4号路(吊り橋コース)  1.5q、50分
 このコースは、北斜面の山道を山肌に沿って山頂直下まで登ります。
入口は、浄心門の右手前にあります。よく整備されている道を500mほど進むと、吊り橋の「みやま橋」が現れます(写真左)。橋を渡ると一転、上り坂になり、階段状の道も増えてきます。モミの木が生い茂る尾根を回り込むように登ると、ベンチのある広場に出ます。
さらに尾根を進むと「いろはの森コース」と交わりますが、直ぐその先で同コースと分かれ、4号路は右の道に入り北斜面を進みます。ここは少し分かり難い所ですが、二股になっている交点には「自然研究路4号路をへて高尾山頂へ」の案内標識があります(写真右)。500mほど進むと山頂下トイレ前(4号路の終点)に出ます。右に進めば山頂です。

  


〇2号路(霞台ループコース) 0.9q、一周50分
 このコースは、霞台周辺の山腹を一周します。高低差は100mほどで、アップダウンも少なく、南・北斜面の樹林の違いを観察しながら周回することが出来ます。
 入口は、霞台の十一丁目茶屋付近の南北、それに浄心門付近の南北、計4ヵ所あります。
以下は、2号路設置の解説板からの転記です。
「2号路の南側では、落葉樹は全体の3割ぐらいなのに、北側では7割以上になります。高尾山では、わずかな気候の違いで、山の南側には日本の南半分を代表するシイ、カシの林(常緑広葉樹)」が、北側には、日本の北半分を代表するブナやカエデからなる林(落葉広葉樹)がすみ分けています」。(写真左は南斜面の常緑広葉樹、右は北斜面の落葉広葉樹。撮影日は何れも29年12月29日)

  


〇5号路(山頂ループコース)  0.9q、一周40分
 このコースは、高尾山頂からわずか下の標高555〜585m辺りを一周し、2号路以外のすべてのコースに接続しています。南側斜面は雑木林、北側斜面には江川杉をはじめとする植林地が広がっています。
江川杉は高尾山で最古の人工林といわれており、江戸時代末期に江川太郎左衛門(伊豆韮山代官)の命により植林されたもので、幹回り82p、高さ32mの大樹もあります(写真左)
また、シモバシラに出会うこともあります(写真右。左側の撮影日時は12月13日9:10頃、右側は29日8:45頃)。地面に出来る霜の柱もシモバシラと呼ばれますが、こちらはシモバシラという植物の茎にできる氷の結晶です。高尾ビジターセンター職員によれば、大きいものは12月中旬〜1月上旬ころ見られることが多い、とのことです。
 コースへの入口は複数ありますが、山頂下トイレ前を右、又は左に進むのがよいでしょう。コースの入口に至るまで、階段がなく楽に移動できます。

  

 最後に、1号路最初の解説板を紹介します。
「自然豊かな高尾山を歩くと、森の不思議に気付くでしょう。季節の移り変わりに目を向け、耳を傾け、鼻を効かせることで、多くの発見があるはずです。さあ、探してみましょう。あなただけのとっておきの自然を・・・。」



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