還付金詐欺受難未遂顛末記

9区隊
吉田武志 機甲科


1 経緯
 平成30年5月25日(金曜日)午前11時頃、当日は珍しく朝寝もせずにテレビを見ていると電話の着信音が響く。
妻は居ないので応対しようとしたがディスプレイは『非表示』のため一瞬考えたが、暇でもあるし出てみるか!と気軽に総受話器を取ると軽い調子の男の声で「もしもし、ヨシダタケシ様のお電話で良かったでしょうか?」との問に、思わず「そうだ」と答えると「私は、町田市役所、生活保険課だか健康福祉課(あまり気にも留めていなかったのではっきりした記憶がない)の○○です。実はヨシダ様は昨年10月の高額医療費の還付請求をされていません。還付請求は今年の4月30日に期限が過ぎておりますが、その(該当する)請求書をお持ちでしょうか?」「そんな物、何処にあるか分からない。

ところで還付金とはどれ位か?」との問に「2万7千600円です。」と細かい数字で応えてきたので「へえ〜」と内心びっくりするも「ちょっとした小遣い銭だな」と内心ほくそ笑む。このあたりが年金生活者の「貧すりゃ鈍する」のタトエが頭に浮かんだがニッコリしたことだけは確かだ。後は、口座のある金融機関のATMで処理できるとのことでいくつか銀行等の名称を挙げた。「みずほ銀行」と答えると、「この還付金の処置は本店扱いとなりますので、後ほどみずほ銀行本店からお電話がありますのでお待ち下さい。15分ぐらいかかります」で、電話が切れたが20分程経った頃今度は0120からの電話。

ホイホイと電話に出ると、「みずほ銀行・本店のカイヌマですが、高額医療費の還付手続きの説明をします」「手続きは、当行ATMでお願いします」「この手続は本店扱いとなり、支店は関与しておりませんので、支店へいかれても話は通じません。そのことを、お含みおきください」「え!みずほ銀行のATMはどこにあったっけ?」「東急デパートツインズ・ウエストの1階にあります」「何時頃、おいで頂けますか?」14時頃と告げると、その時間帯には先約があるので13時にしてくれという。どうせ、暇だし「OK」の返事をして大急ぎで昼食を済ませ、約束を果たすという使命感のようなものもあったような気がする。

2 ATMの前で
 13時少し前に家から10分程の『東急百貨店 西館』の1階にあるATMの前に到着。
利用したそうな女性がいたので先を譲りあたりを見渡す。ATM前のちょっとしたスペースでは、いつものように用品雑貨のワゴンセールが行われており買い物客がチラホラと見える。これは、いつもの風景だが今日は、割と頑丈そうな30歳前後の男が『防犯』と書かれた緑色の腕章を巻いてATMの近くに、チラシのようなものを持って立っていたのが異様であった。その男を観察していると、ズボンのポケットから何やら黒いものを引っ張り出して眼の前に示した。なんとそれはテレビドラマでよく見る警察手帳だった。手帳の持ち主の名前は「O・・・」と読めた。凝視すると本物らしく、本人は警視庁から派遣されATM を利用した犯罪の予防制止のためにここで勤務している。と名乗った。「私は大丈夫」とかなんとか言ってスマホを握り直した。

先を譲った女性がATMから離れたので順番だ。やおらATMの前に立ってスマホで午前中に聞いていた「みずほ銀行本店のカイヌマさん(0120−921−602)」あてに電話を入れる。素早くという感じで応答があり「早速、高額医療費の還付を行いますので私の言うとおりにATMを操作してください。よろしいですか。まず、振込を指定してください。」「ちょっと待てよ、振込はこちらから誰かの口座に振込む処置ではなかったか。」との疑問も浮かんだが、別の機能も有ったのかなと、疑問を封じ込めて言われるままに操作を続ける。その間、左隣に立っているOさんの視線が痛い。しきりに「大丈夫ですか、支店の窓口を利用されたら如何ですか。」と口を挟んでくる。思わず、スマホを離して「今、操作の最中ですから横からゴチャゴチャ言わないでください」ぐらいなことを言って操作を続ける。

すると、画面上に『千葉銀行、東金支店』と出てきた。「こりゃおかしいよ、なんで千葉銀行なんだ」と思ったら、「次に、6桁の暗証番号を入れてください。いいですか。456,123」言われたとおりに数字を入力すると画面上には「456,123円」と表示された。流石に、こりゃ騙されたと気付き「画面がおかしなことになっているので、隣りにいる警察官に代わる。」と言ってゴチャゴチャと邪魔をしたOさんに、おかしな画面を示して電話を代わってもらった。彼は、少し離れたところに移動して2〜3分離していたが、「話してください。」とスマホを返してくれた。その、スマホに再び出ると、「警察からの指示がありましたので、支店で対応してくれるかどうか支店に尋ねますので、支店の方へ歩いてください。支店に到着するまでに再度電話をします。」ということで電話は切れた。そこで、Oさんに断って支店に向かったが支店に到着するまでにとうとう電話はなかった。

3 みずほ銀行町田支店にて
 13時45分頃、みずほ銀行町田支店に到着。
窓口の反対側の壁際にいる『窓口の案内係(カウンターマネージャー)』の女性に「みずほ銀行本店に(0120−921−602)電話存在の有無、及びカイヌマという行員存在の有無」について確認を依頼した。「高額医療の還付詐欺」の舞台にみずほ銀行本店が利用されたことを理由とした。対応してくれた女性は早速メモを持って事務所内に消えた。

待つこと数分、別の女性が、渡したメモを持って出てきた。そして普段は客と個別相談する狭いスペースの中に案内された。返事は、本店に当該電話もカイヌマも存在しないと言うことであった。さらに何度か電話を入れたが、その都度電話はすぐに切れて会話は出来なかった。」ということだった。当方からは、今までの一連の出来事を説明し謝意を述べて一件落着した。

4 町田市役所にて
 みずほ銀行町田支店から更に足を伸ばして市役所に向かう。
市役所では、先ず『保険年金課保険給付係』の窓口で高額医療の請求漏れの有無について質問すると眼の前のパソコンで検索、即無しの回答であった。そこで、恥ずかしながらと、還付金詐欺についての概要を話すと、担当者は「少々お待ち下さい、上司に報告します。」と、奥へ消えた。

しばらくして帰ってきた担当者は、「非常に重要な問題です。保険金詐欺等については3階の『市民生活安全課』が主担当となり対策にあたっています。ご面倒でなければ、との依頼で3階に移動、『市民生活安全課』での担当者によると町田市は東京都内でも高齢者の詐欺被害がかなり上位にランクされているため、各種の詐欺対策を重視しているとのことであった。そのため再度経緯を詳しく話した。担当者は内容を了解してくれたが、「警察へは市役所からも連絡しますが、警察は被害者の生の声を欲しがっています。」と警察へ行くことを暗に勧めているようであった。「今日はくたびれたから、来週行きます。」と言って市役所を後にした。

5 再びATM の前へ
 16時を過ぎていたが帰り途でもあるので、舞台となったATMに行った。
そこには先程のOさんと話すもうひとりの40過ぎの男がいた。やはり警察官だと名乗り手帳を示そうとしたが制止して2人に『みずほ銀行町田支店』と『町田市役所』での経緯を詳しく話し、「銀行でも市役所でも、電話で話していたことは存在せず全て嘘であることがハッキリしました。」と言ったことに対し、40歳過ぎの警察官は、「町田警察署に行って経緯を連絡してもらえるか。車を手配する。」と言ってくれたので歩きでなきゃあいいやと「了」の返事をするとスマホで話し出したが、彼のスマホを私に手渡すと「電話で話してくれ。」という。

電話に出ると相手は「町田署の組織犯罪対策担当」と名乗り経緯位を聞いてきた。何度か同じことを説明してきたので要領よく説明できたようだ。担当者は、「よく分かりました。電話で承っておきます。」とのことで警察署へは行かずに済んだ。警察官2人には丁寧に礼を述べて別れた。それにしても、Oさんにはずいぶん失礼な態度ではなかったかなと思うが腹も立てずに大したものだと感心した。

6 反省
 つくづく齢をとったものだ。
冷静に考えれば、最初の電話は『市役所』からであれば『非表示』の筈がない。おかしいと考ねば。また、『請求漏れの高額医療費の還付金』なんかあるはずがない。第一、去年10月に高額の医療費の出費の記憶がない。小遣い銭になると考えるところがさもしい。

更に、『ATMで還付金の受け取りは出来ません。』とは、テレビや街頭でも再々聞かされていなかったか。
最終的には、気が付いたけれど日頃から「自分だけは大丈夫、まだまだ元気」と思っていたが、暇からくる好奇心、覚えのない金ではあるが小遣い銭へのさもしい誘惑が重なって今回のような恥かきになった。

それにしても警察官の制止を振り切るところなんぞ、大した自信も砂上の楼閣と思い知った。だが、恥ではあるが銀行支店と市役所に確認を取るとともに、あった出来事を通報できたことはまあ及第点とするか。

7 その後の展開
 5月31日、13時17分『03−5651−0110』とディスプレイに表示された電話がかかってきた。
確か警察関係の電話は『110』が多かったなと電話に出る。電話の主は、「警視庁中央署の組織犯罪対策第9課のK」と名乗り「ヨシダタケシさんですか」と電話相手を確かめると「先日の詐欺グループを逮捕しました。吉田さんの項にはみずほと書かれていますね。詐欺グループは今回失敗したので更に連携して、警察の名を騙り『カード番号を教えろ』とか『カードを預かりたい』とかアクションをかけてくる可能性もあります。十分気を付けてください。」とのアドバイスがあった。

ちょっと調子に乗って「『カードを預かりたい』などと言われたら警察と連携しておびき寄せたらどうか。」と提案すると、「危ないことはしないほうが良い。」とたしなめられた。

また、詐欺グループ逮捕のニュースは、産経新聞では5月31日(木曜日)の14版 社会28面で『カード詐取など疑いで詐欺集団17人を警視庁と京都、和歌山、高知各府県警が逮捕した。』と報道されている。 記事によると17人は詐欺グループの一部で、メンバーを入れ替えながら複数の拠点で特殊詐欺を繰り返していた。詐取した金が暴力団関係者に流れていた可能性もある、とのことである。
一件落着、めでたし・めでたし。

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