10月下旬、油絵の仲間と一泊で清里・野辺山周辺にスケッチ旅行に出かけた。
白樺林の紅葉には少し遅かったが、秋空のもと鎮座する八ヶ岳は眺めているだけでも飽きなかった。

          

 八ヶ岳は好きな山のひとつだ。清里からは八ヶ岳の主峰、赤岳に直登する県界尾根というルートがある。
尾根伝いの樹林帯の中を赤岳直下まで進み、そこから赤岳に向かってロープ、クサリ場の連続する岩場を直登するルートで健脚者、上級者向きと言えるだろう。
その赤岳を正面に見ながら絵を描いたのだが、今は亡き塚原茂樹君とこの県界尾根を登った時のことが蘇った。

 平成20年10月、当初の予定は北アルプスの白馬岳だったが、天候がよくなかったため八ヶ岳に変更したものだった。

 夜中に家を出発し、途中塚原君をピックアップし、清里の登山口に着いたのが夜中の2時ごろ。
車の中で3時間ほど仮眠をとり、早朝登山開始。途中ダケカンバはじめ木々の紅葉がまぶしかった。
「山はいいなあ」と同じことを何回も言いながら山道を歩いた。

 赤岳山頂まで続くロープ、クサリの張られた岩場はなかなかのもので、垂直に近いようなところも何カ所かあり、岩場の登りも満喫できた。
10時頃には赤岳山頂に到着。南アルプス、遠くにうっすらと見える北アルプスの絶景を眺めながら長めの休憩。
その後ゆっくりと横岳から硫黄岳までの尾根道を縦走し、硫黄岳山荘に宿泊した。夕食のとき、大食漢の塚原君がご飯を残し、持参のワンカップもあまり進んでいない。聞くと「最近あまり食えないんだよな」という。

 翌朝は最高の天気。早めに山小屋を出発し、尾根道を前日来た方向に縦走する。
右手に北アルプスの槍、穂高連峰の山並みがくっきりと姿を見せており、絶景。最高の尾根歩きだ。横岳を過ぎて赤岳展望荘まで来て休憩。北アルプスのあまりの素晴らしさにスケッチをすることに。
塚原君も油絵を趣味とした。後にも先にも塚原君と一緒にスケッチをしたのはこの時だけだ。
出来栄えはともかくとして今となっては懐かしい思い出だ。

 帰りの高速道路の渋滞も気になり、「おい、そろそろ行こうか」というと、「もうちょっといいだろう」と塚原君。
これが最後の山だとの予感だったのか。
 下山後清里の温泉で汗を流した。その時塚原君の痩せた身体が気になった。
「おい、医者に診せた方がいいぞ」というと、「うん、そうする」と答えた。それからしばらくして電話があり、「胃がんだったよ」という。その5ヶ月後平成21年3月に塚原君は逝った。

 亡くなる一か月ほど前、電話で話しをしたが、その時、「秋までには何とか体力を回復するからな。次は白馬岳をやるぞ」と自分に言い聞かせるように言ったのが最後の会話となった。

 早いものであの時の八ヶ岳登山からもう7年になる。

                  
                              赤岳山頂の塚原君

 塚原君と登った時のことを思い出しながら今回のスケッチ旅行で描いた油絵がこれである。

          

                                                      (平成27年11月記)


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    八ヶ岳紀行

野村 誠
  10区隊
  職種: 普通科