「目黒のさんま」と嶋野隆夫君 

喜田邦彦 (偕行社)

   

 味覚の秋。それを代表する海の幸・庶民の味は、さんま・秋刀魚だろう。 このさんまにちなんだ東京の秋祭りに、「目黒のさんま祭」と「目黒のSUNまつり」がある。

「目黒のさんま」とは、落語噺の一つで、いろいろなパターンがある。噺の概要は、江戸に住む殿様が鷹狩りの帰り、目黒不動に寄った後に近くの茶屋で一休み。現在は、目黒川近くの茶屋坂と呼ばれる場所で、自衛隊幹部学校に隣接した清掃工場・公園と一体の場所、田道公園だったようだ。
茶屋のオヤジは殿様に、芝浜で揚がったさんまを目黒川で運び、それを七輪で塩焼きにして差し出した。これを食した殿様は、油の乗った香しい魚肉と、土地で採れた大根おろしの絶妙の配合にいたく感心し、「さんまは目黒に限る」とお墨付きを与えたとか・・・。

日頃から殿様は、日本橋に揚がった (日本橋に揚がる魚は高級魚) さんまを食していたが、それは丁重に蒸し焼きされて油が抜け、パサパサしていた。ところが芝浜・目黒に揚がったさんまは低級魚とされていたが、目の前で塩焼きされ、もうもうたる煙に包まれながらアツアツのまま出されほうがうまかった。うまいはずだ。丁重に調理したものが、かえって不味かったという滑稽噺である。

 現代に戻って、「目黒のさんま祭」は、JR目黒駅前商店街振興組合が主催し、さんまは岩手県宮古産、大根は栃木県産、スダチは徳島県産を用いる。
「目黒のSUNまつり」は、目黒区民まつり実行委員会主催、目黒区教育委員会後援の行事で、気仙沼産さんま、宮城県産大根、大分県産カボスだそうだ。最初は前者と同じ「目黒のさんま祭り」と呼んでいたが、区民祭りの一部になった際に「目黒のSUNまつり」に変更したそうな。

この両者は、実施時期を一週間程度ずらしながら、お互いに「本家」争いを20年近く続けてきた。ありがたいことに、庶民は競い合う祭りのお蔭で、二度うまいさんまの塩焼きにありつけるというわけだ。だが本家の名跡争いは、味や産地に甲乙つけがたいとなると、茶屋坂で開く後者に軍配が上がりそうだ。JR駅前側は、品川区上大崎だから目黒とは言いがたい。

 その田道公園側の実行委員長が、なんと同期生の嶋野君である。
彼が区民祭りにかかわったのは、現役時代に目黒の官舎に住み、PTAの会長として種々お手伝いをするようになったからで、七年も前から実行委員長をしている。
「年々参加者も多くなり、売り切れ御免になるのが玉に瑕」だそうで、「押すな押すなの事故の防止に気を使っている」と抱負を語ってくれた。

大震災の二年前も、復興支援の募金を兼ねて祭りを実行したそうだ。昨年は不惑会に参加呼びかけがあり、20名近くが参加したが、区民の熱気に圧倒され、煙と香りを嗅いだだけで目黒駅前の居酒屋での不惑会に突進したと報告されている。花より団子じゃないけれど、「飲み放題の不惑会は、目黒に限る・・・」というおちでした。今年も是非参加し、秋の味覚・嗅覚を楽しもうではありませんか・・・。
       

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